ソシャゲのガチャの話

「私は運がいい」

 

そう思うようになったのはいつからだろうか。

正確にはそう思い込むようにしていたのだが。

 

運が悪いと思い込めばそれだけで運が逃げていくような気がして、突発的な良いことが少しでもあると「あぁ、なんて運がいいんだ!」と思うことで、ネガティブな私をちょっぴりポジティブな私に変換していたのだ。

 

たったそれだけのことだが、救われていたのだ。

 

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さて、去年の7月、飲み会の場で私は友人に勧められとあるソーシャルゲームを始めた。

 

この頃、他のゲームをほとんどしていなく、社会人になって友人達とも会う機会は少なくなっていたので、共通のソシャゲをするということはとても楽しい気がした。共通の話題を持つことで連絡を取る機会が増えると考えたのだ。

 

その飲み会に参加している私を含めた4人のうち、2人は既に始めており、私ともう1人が新しく始める状況で、そのソシャゲのことを話す用の4人のライングループすら作った。嬉しがりなんだ。

 

そんなわけで始めたゲームだが、ソシャゲにはやっぱりガチャが存在する。

 

このゲームは世間でも大層人気のゲームなので始める前から、私も名前だけは知っていた。

 

そして、名前の他にもう1つ私はそのゲームに関する情報を持っていた。

 

「このゲームはガチャがとことんシブい」

 

名前とガチャのシブさしかしらない私であったが、ゲームは楽しかった。

 

とても楽しかった。

 

友人に逐一ラインで近況も報告した

 

「レベルMAXになったよ!」

 

「ここのクエストクリアできんのやけど!」

 

「このキャラ可愛い!」 

 

なんて、はしゃいでいた。久しぶりに友人とやるゲームは楽しかった。

 

 

さてさて、そろそろ本題に入るわけだが、私はこのゲームを初めて、欲しいキャラを見つけた。

 

勿論、そのキャラクターをゲットするにはガチャを引かなくてはならない。

しかし、そのキャラは恒常のガチャでは排出されない。

 

ガチャのラインナップにそのキャラがピックアップされないとガチャから排出はされないのだ。

なので私はガチャはひかず、その欲しいキャラがピックアップされるまで待つことにした。ガチャに使う石を貯めれるだけ貯めようと思った。

所謂、ガチャ禁だ。(まぁ、欲に負けて関係ない場面でちらほら引いてしまうのだが)

 

課金する程のお金もないので無償の石だけでどれだけ貯まるか分からないが…。

 

 

そして、今年の1月某日

 

お目当てのキャラクターのピックアップがきた。

 

ゲームを初めて半年が過ぎていたので、そろそろ来るだろうと予測すらしていた私だ。ゲームにもすっかり慣れてきていた。

 

ガチャ石は630個まで貯まっていた。

 

ガチャは石3個で1回、回せる。

 

つまり210連分のガチャが引けるのだ。

無償の石だけでこんなに引けるのだ。これは凄い。

 

因みに買うと石1個120円する。

630個で75,600円分だ。(石はまとめて買うとおまけでいくつか増えるので実際はもっと安く買えるはずであるが)

 

私に抜かりはない。

このゲームの先輩友人にも石が大体いくつあれば目当てのキャラが出るかリサーチもしている。

 

友人曰く「500個石があったらでる」だ

その友人も実際500個で2体引き当てている!

 

勝ちだ!私の勝ちだ!

ガチャのシブさなんか怖くなかった。

なんてたって75,600円分だ!これで出なかったら嘘だ。

 

10連ガチャを回す。

出ない。

まぁ最初だもの。そんなもんだ。

 

20連。

出ない。

 

30連。

出ない。

 

しかし、心は余裕。

なんたってまだまだ石はあるのだ!!

 

 

…さて、読んで下さっている方はもう察していると思うが、

私は石を全部使い切ってもお目当てのキャラを引くことができなかったのだ。

630個はあっという間に消えていったのだ。

 

絶望。

友人にすぐさま報告したら

「ラックが足りなすぎる」と言われた。

 

なんだと!私は運が良い方なんだ!なめんな!

 

すぐさまゲームのクエストを回って石を貯める旅に出た。

(クエストを一定クリアすると報酬で石がもらえる)

 

それからの日々はゲームしかしていない。

仕事から帰って 鍋を食べたら(鍋を食べる理由)、すぐゲームをした。

貯めては回す。貯めては回す。

かれこれ何回、回しているのかもう分からない。

報酬の石すらもう回収できる数が限られている。

 

しかし、まだでない。全然でない。

 

色んなガチャ宗教にも手を染めた。

乱数調整教、触媒教、描いたら出る教…etc

 

だがしかし、一向に目当てのキャラは出なかった。

 

そうなると私の頭にはあの文字が浮かぶ

 

「課金」

 

してしまうのか。私は。遂に課金に手を出すのか?

「課金したら出る教」という宗教があることも聞いた。

 

だが、すでに7万以上分のガチャを回しているのだ。

それに比べたら私が課金出来る額では頼りなさすぎるではないか!

 

私は悩んだ末、1万入れた。

 

無償で手に入れた石より遥かに少ないのに重みが違う。

スマホを持つ手が震えた。

1人では引けなかった。

 

わざわざ友人と会う日に課金して、友人の手を握って引いたくらいだ

 

全身全霊。

これがお金の力だ。

お金は何にも勝る最強の武器なのだ!

 

回るガチャ画面。

その画面が怖くて見れない。見ていられない。

何度も目を逸らしそうになった。

 

だが、目を逸らしてはいけない。

何故かそう強く思った。

 

そしてその1万は消えた。目当てのキャラはまたしてもでなかった。

 

私は泣いた。

(課金している人に比べたらたかが1万なんだろうが)

 

別の日、私はまたお金を入れた。

これで最後、これは諦めるための課金だ。

ここで出なかったら、そういう運命なんだ。

きれいさっぱり諦めよう。

 

そんなまるで恋のような感情でまたガチャを回した。

 

この前のように友人は傍にいない。

握れる手はない。

そのかわりに電話を掛けた。

私は言う。

「今から引くから聞いててくれ」

 

「お。じゃあガチャが出そうな歌、歌ったるわ」

ヒトカラに来ている友人は「God knows」を歌ってくれた。

www.youtube.com

 

震える指先でガチャを回す。

回るガチャ画面。

もう何度も何度も見た画面だ。

ここで終わりじゃない。

その先の画面を私は見たいのだ。

 

 

 

そして、そう、また、出なかった。

 

 

泣いた。

焦がれた想いの矛先をどこにも向けられず、課金の背徳感で苦しんでいたら友人が

「俺はガチャでそんな必死になったことないから、必死になってるお前のそのお金の使い方は間違いじゃないよ」

と慰めてくれた。

 

少し。救われた。

 

諦めようと思ったのに、それからまたクエストを回り、再度10連した。

出なかった。

 

しかし、ここまでくると逆に諦めきれない。

お金は無いわけではない。

私の家の押入れにはもしもの時のためのへそくりがまだ何万かあるのだ。

いくぞ。私はもう止められない…。

 

 

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と、ここで終わるつもりであったが、書いている途中にコンビニに出かけ、その時、郵便ポストを覗いたら結婚式の招待状が投函されていた。

 

私の手に握られていた3万はご祝儀袋へ吸い込まれていった。

 

私を止めたのは人と人が育てた愛だった。

 

私は今日も運が良い。